学問の部屋です。
同じ曲でも、アレンジによってまったく違ったふうに聞こえます。知っているはずの曲なのにしばらく気が付かなかった、という経験はないでしょうか。
ちょっと偏っているかもしれませんが、私などは音楽は編曲こそすべてだと思っています。ですから、誰かのオリジナルのアルバムよりも、ある作曲家や歌手やバンドへの"トリビュート・アルバム"のほうにより惹かれます。
さて、本書はバークリー音楽大学で作曲や編曲を教えているLee Abeさんによる編曲のハウツー本です。
この手の理論書は数も多く、しかもかなりマニアックな内容のものもあり、迷子になってしまいがちです。本書にも「大全」と銘打ってありちょっとひるみますが、結果、この本はとても刺激的な内容でした。
それは、そんなにマニアックな内容ではないという意味も含みます。
とはいえ、初歩的という意味では決してなく、他からは得がたい、多くの経験を積んだ人にしかわからない貴重な情報ばかりです。
極端な話、音楽はけっきょく、良ければなんでもありなのだとはいえ、本書には著者の血肉となった技術がいっぱい詰まっています。
自由は制約の中にしかない、ということがよく分かる1冊です。
コードの簡単な解説、コード進行、リズム、各楽器のパートのアレンジの仕方など、編曲という仕事を俯瞰できるような章立てになっています。
とくに面白いのが、ドラム、ベース、鍵盤、ギター、ホーンセクションなど、それぞれの楽器の使い方のノウハウです。
また、本書では繰り返し、譜面至上主義にならず、各楽器を担当するミュージシャンがのびのびと演奏できるような記譜法を心がけるように言われているのが印象的でした。
これも、各ミュージシャンの力量を最大限に活かすことで、楽曲に思いがけない魅力を与えるための、経験から得た知恵なのでしょう。
本書を読むと、曲を聴くときの「耳の解像度」が格段に上がります。また、「そこで行われていること」の文脈がつかめるようにもなります。ぜひ。
【ビル・エヴァンス版の「枯葉」】
【イヴ・モンタン版の「枯葉」】
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