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執筆者の写真mayurransan

榎本幹朗『音楽が未来を連れてくる 時代を創った音楽ビジネス百年の革新者たち』(DU BOOKS)


学問の部屋です。

今回は、音楽ビジネスについての本です。


「音楽こそイノヴェーションの推進力である」という仮説のもと、音楽産業の盛衰史を情報技術の革新とからめて語っています。


エジソンの蓄音機に始まり、レコードやラジオの普及を経て、SONYウォークマン、CDの発明、MTV、CDウォークマンのヒット。CD売り上げは90年代に全盛期を迎え、以後衰退していきます。


ナップスターの違法ダウンロードによる音楽産業の破壊。訴訟を経て、AppleによるiTunes、iPodといった"良識的な"発明があり、しかしやはり曲単位でのダウンロードはそこまで音楽産業を救うことはできず……


このあたりで携帯電話が登場します。日本ではimodeや着うたが爆発的人気を呼び、危機感をおぼえたスティーヴ・ジョブズがiPhoneの開発に乗り出します。


一方、googleの検索エンジン、Youtube、アンドロイド、パンドラetc...と音楽を求心力として様々なイノヴェーションが続き、ついにSpotifyなどのサブスクが登場、基本無料というシステムが合法的に実現。


……語りと構成がドラマチックなので、ぐいぐいと読めます。何百億の収益とか、何十億で買収とか、ケタ数が違いすぎる情報にはついていけませんでしたが、そうしたビジネスに関心のある方にとっては数字を追う楽しみもあるかもしれません。


とはいえ、iPodやSpotifyなどの開発競争の裏には、収益をあげることはもちろんだけれど、立場の弱い音楽家をサポートしたい、無名のミュージシャンを押し上げたいという人間的な動機が見え隠れしています(sessionsなど)。


そこのところを、何人かのイノヴェーターたちを登場人物として本書はていねいに掬いあげているために、単なる業務報告書や数字の上下の追跡のような情報の羅列におさまらない歴史物語として楽しめます。


無知にして知らず目を見張ったのは、中国のテンセントの動向です。上に紹介した多様なサービスが複合化され、ものすごいことが起きているようです。若者のみならず、5〜60代のご婦人たちが渦の中心となって。


世界はこの中国モデルの方へ流れていくのでしょうか。今後の動向が楽しみです。



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