学問の部屋です。
【月刊たくさんのふしぎ2019年9月号】です。
著者の木原郁子さんは中日新聞の記者です。あるとき、アメリカで「一郎くんへ」と書かれた日章旗が発見されました。その、かつて出征しただろう一郎くんとは誰なのか。
その謎が解けるまでを追ったノンフィクションです。忘れられない1冊です。
別の本で読んだのですが、こんな裏話があります。ちょっと長くなりますが書きます。
(ネタバレになりますので、知りたくないという方は先を読まないでください)。
もともと、木原さんは実際に彼の足跡を追いかけ、取材を重ね、その顛末を新聞記事として連載したのでした。
ところで、この「たくさんのふしぎ」の編集長、石田栄吾さんはたいへんな新聞好きです。いつも誌面を隅から隅まで読みます。ところが子育てなどで生活がより忙しくなり、だんだんとその日読む新聞の日付が遅れていきます。それでも石田さんは、順番に、律儀に、新聞を読み進めていきます。
そのうち、1年半ほど遅れてこの「一郎くん」に関する新聞記事と出会います。その後、この絵本の著者になる木原さんが書いた記事です。ただ、その連載では、一郎くんが誰なのかは判明したものの、どんな見た目だったのかまではわかっていませんでした。
あいかわらず石田さんは新聞を丹念に読み続けます。と、ある時、一郎くんの写真が見つかったという小さな記事を見つけます。なんと、
「木原さんが諦めきれず親戚宅にうかがったら、ずっと開けていなかった仏壇のひきだしから、一郎くんの写真がハラリと落ちてきた」
その写真の裏には、一郎くんのお母さんの手で、「中田一郎 たいせつ」と書かれていました。「弱々しい鉛筆の文字で」。
こうして、絵本のオチとなる記事に遅れて出会った石田さんは、記者の木原さんに絵本の執筆をオファーすることにしたそうです。
遅れてまで新聞を熟読するというちょっと奇妙な癖をもっている石田さんがいなければ実現しなかったはずの、運命が交叉した絵本です。
ぜひご一読を。
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