学問の部屋です。
今回は、おそらく多くの人が知っている絵本です。読んだことがなくても、どこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。
私はこの絵本を、子どもと大人の、2つの目線から読みました。
(ちなみに、私自身が子どもだった頃にも読んだはずですが、何も記憶に残っていません。)
ところが、大人になって娘に何か絵本を選ぼうと書店に立ち寄ったおり、なにげなく手に取って読み始めたら、ア然とするほど良い本でびっくりしました。
文字どおり、死んでも死んでも生まれ変わる猫の物語です。あるいは、いつまでたっても死ねない猫のお話でもあります。
王の猫、船乗りの猫、どろぼうの猫、サーカスの猫、おばあさんの猫、少女の猫etc...として生きては死に、飼い主たちはそのたびにひどく悲しみます。
でもこの猫はどこ吹く風。というのも、猫は自分だけが大切だったからです。
猫はついに、誰にも支配されない、自由な野良猫に生まれ変わります。
他の猫たちにチヤホヤされる中、しかしたった1匹だけ、自分には見向きもしない白猫がいました。この白猫と出会ったことで、猫の価値観は180度がらりと変わってしまいます。
死に対する考え方もまたーー
子どもはおそらくこの本を読んで(読んでもらって)、共感するところはあっても、何度も読みたい、読んでほしいとは思わないはずです。なぜなら子どもは、まだ100万回生きられるはずだからです。
そんな子どもにとって、ある出来事がきっかけで永遠に死ぬことを選んだ猫は、ただ不思議でしかたがないでしょう。記憶に残る場面があるとすれば、その違和感かもしれません。
100万回生きることができる子どもにとっては、にもかかわらず1回だけを生きることに全力を注いでみることの理不尽さとかけがえのなさが怖くなるかもしれません。
一方、一度しか生まれ死ぬことができないと信じている大人は、100万回生きることが可能だという発想に多かれ少なかれ不意打ちをくらうはずです。どうせ人は死んでしまうという事実を再確認したところで、得るものより、失うもののほうが多いということに気付かされます。
この絵本の結末で、子どもの目線と大人の目線が、ちょうど正反対の方向から出会います。あるいは、1人の読者の中に同居している子どもと大人が、かもしれません。
いずれにしても、"限りあるもの"の見えていなかった半面をまのあたりにすることになるのです。
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