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執筆者の写真mayurransan

『繪本 平家物語 カジュアル版』安野光雅(講談社)

更新日:2023年4月22日


学問の部屋です。


今回ご紹介するのは、画家の安野光雅さんによる『平家物語』絵本です。


学校の古典の授業で、「祇園精舎の鐘の声……」で始まる冒頭部分を暗唱した方も多いのではないでしょうか。


日本の古典文学をそれほど読んだわけではありませんが、私が読んだなかでもっとも面白いと感じたのがこの『平家物語』。


折にふれて読みたくなります。2年ほど前にも読んだ、古川日出男さんによる現代語訳も合わせておすすめしたいと思います。力強く音楽的な語り口がクセになります。約900ページありますが、あっという間に読めてしまいます。


さて、上の絵本ですが、各場面の短い解説とともに、細密な絵が綴じ合わされています。平氏と源氏、どちらにも感情移入させないようにするためか、両者の戦いが斜め上の視点から描かれます。


だからちょっと大きめの昆虫の群れが争っているようにも見えます。どれだけ業の深い人間のしわざであれ、波や風や炎や雨や雷や崖などと比べれば大した存在ではないとでも言いたげです。


一連の絵の基調となっている色は、黄色(金色にも見えます)と、イヴ・クライン・ブルーにも似た青、そして赤(炎の色として欠かせません)。


【イヴ・クライン・ブルー】


これからの色が、仏になったり、炎になったり、島影になったりしながら、人間たちをさしおいてさまざまな形象にすがたを変え、ページをつないでいきます。この3色が主人公の絵本だとさえ言えそうです。


その脇で、まるでまさに落下している最中の巨大な石の上にいるとも知らずにいがみ合っているような、人間たちのはかなさ、あわれさ、滑稽さ、命の軽さが、乾いた感じで表現されています。


本書を読みながらずっと、スタジオ・ジブリで宮崎駿さんと盟友だった故・高畑勲さんが『平家物語』をアニメ化したら、さぞすごいものができあがっただろうなと妄想をたくましくしていました。

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