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執筆者の写真mayurransan

『佐野洋子 あっちのヨーコ こっちの洋子』(コロナ・ブックス 平凡社)


学問の部屋です。


前にご紹介した『100万回生きたねこ』の作者である佐野洋子さん(1938 - 2010)について知りたくなり、手に取りました。


創作秘話を探してページをめくるうち、すっかり彼女の人格そのものに魅せられてしまいました。


薄い本ですが、全編カラーで、写真、絵、著作からの引用、彼女と関わりがあった人々の証言などが豊富に掲載されています。関心がおありの方は実物を開いてみてください。元気が出ます。


佐野洋子という人のまわりには、機嫌の良い人たちが自然と集まってきている感じがします。そんな磁場を作り出す人なのかもしれません。


上手に悪口を言う(書く)人を私は尊敬しますが、彼女もまたそんな1人だったそうです。本書に文章を寄せている亀和田武氏の言葉を借りるなら、


「人の悪口をいわせると、個性全開、その切り口のあざやかさに感心し、大笑いした。」

「他人の悪口を面白おかしく喋るのは、じつは案外むずかしい。批評性がないと、ただの妬みや、上から目線の陰湿な意地悪にしか聞こえない。語り手の品性が問われる人物ウォッチングなのだ。好奇心と世の偽善を暴く情熱とで、目をキラキラさせて一流の"喋り芸”を披露する十歳年上のオネーサンは、圧倒的に格好よかった。」


なるほど、氏が彼女と友達だったことは幸福だったに違いありません。


悪口に限らず、佐野洋子さんの紡ぎ出す言葉は、強い。魂の強さがそのまま表れたような言葉です。


「オートバイは気持ちのいいものであった。ひっくりかえったら死ぬかも知れぬという恐怖がつきものであるから、ある種の悲壮感が生れる。風が顔の筋肉をひきつらせ、少し年取った顔の皮は、80km位でピラピラとはためく程で、雨なんぞ降れば、体中パンツの中まで雨がしみ入り、それでもひた走っていれば、タンクとパンツの間で水がポチャポチャ音をたてる。いい気分である。……」


この先のくだりもすばらしく、ずっと引用しつづけたいところですが。

あと一つだけ。読書について。


「私は一生の大半を活字を読んで来た。

くだらない本にぶちあたると、どこまで下らないか調べるために最後まで読んだ。読みながら毒づくのが好きだった。素晴らしい本を読むと人に共感して欲しくて無理に貸した。だから素晴らしかった本は私の手元になくなった。貸した本を忘れるからである。」


誰々の本とは言いませんが、これは私にも憶えがあり、思わずにんまり。


引用ばかりしてしまいました。でも引用だけで十分な気もします。




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