学問の部屋です。
"未来派"のデザイナー、ブルーノ・ムナーリによる、凝った絵本をご紹介します。
絵本という概念にとことん揺さぶりをかけてきます。
霧のなかを通り抜けてサーカスを見に行き、また霧のなかを帰ってくる、というだけのシンプルなお話。
けれども、本書のデザインの視覚的展開が半端ではありません。
まずなんといっても、霧の場面のページがみな、トレーシングペーパーのように半透明で、そこに黒で、影を表す絵が描かれています。
この半透明の紙が重なることで、霧の「深さ」が表現されるわけです。
一方、ちょうど本書の真ん中あたりのページが、色鮮やかなサーカスの場面になっています。
なので、冒頭からページをめくっていくにつれて、だんだんと紙の向こうに色が透けて見えてくるという、たいへん凝った仕掛けです。
サーカスへの「行き」は、鉄骨の建築物や自動車、バスなど、カクカクした形に満ちています。
「帰り」は、草や木々の曲線が重なり合っていて、「行き」とコントラストをなしています。
ハイライトであるサーカスの場面のめくるめく色彩とデザインにも脱帽です。
ページには穴が空いていて、その穴のむこうには、ピエロや魚やチョウや花やネコなどがいろいろと覗き見え、ページをめくったらめくったで、その裏側にもちゃんと楽しい仕掛けがほどこされている。
本の中身ではなく、本そのものの体裁にもっとも驚かされた1冊です。
【ブルーノ・ムナーリ氏】
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