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執筆者の写真mayurransan

"The Cello Suites: J. S. Bach, Pablo Casals, and the Search for a Baroque Masterpiece"


学問の部屋です。


今となってはチェロの代表曲の1つになっている、ヨハン・ゼバスチャン・バッハの6つの『無伴奏チェロ組曲』ですが、これはあの不屈のチェリスト、パウロ・カザルスが古書店から「発見」し、彼が演奏したことで脚光を浴びます。


もともとは演奏会のレパートリーとして披露するような曲ではなく、練習曲ていどに見なされていたそうです。


本書は、3つの軸で成り立っています。

1つは、バッハの生涯とチェロ組曲の誕生したいきさつ(どうもこの組曲、最後の6曲目は別の楽器のために書かれたそうです)。


2つめの軸は、カザルスの生涯。バッハ関連のエピソードだけでなく、彼の生国であるスペインがフランコとナチスのファシズム政権に翻弄された時代が描かれます。カザルスは亡命を余儀なくされます。


3つめは、著者のエリック・シブリンが2人の音楽家の足跡を辿る旅。彼の好奇心と情熱とが、単なる歴史的情報となりつつあった2人の音楽家の運命の物語に、新たな息吹をふきこみます。

ミッシャ・マイスキーへのインタビューも読みどころです。


皮肉なのは、バッハの音楽がゲルマン文化の遺産と見なされていること。

そのために、バッハの自筆譜は、戦時下においても消失せずに済みました。ナチスドイツもまた、バッハの楽譜を守り抜きました。


一方カザルスは、ファシズムを心底忌み嫌っていました。にもかかわらず、亡命生活を続けながらもバッハを演奏し続けました。

好きなものは好き。この同語反復こそが生きるということだと、カザルスは教えてくれます。


白水社より、武藤剛史さんによる和訳が出ていました。














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