学問の部屋です。
オペラに詳しい若い知人(なんと15歳!)にリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)を薦められ、見てみることに。
楽劇『トリスタンとイゾルデ』のDVDです。ケルト伝説に基づく悲恋物語。ダンテの『神曲』地獄篇でも言及されています。
ワーグナーといえば、生前も死後もいろいろと物議をかもした作曲家。
現代音楽の源流とも言われ、本作の冒頭に演奏される「トリスタン和音」はそれまでの調性を破壊する端緒を開いたという意味で画期的でした。この2つの和音を聞くだけで催眠術にかかったみたいになります。まだ聞いたことがないという方はお試しください。
むかし、バイエルン国王ルートヴィヒ2世もワーグナーの音楽催眠にかかり、バイロイト祝祭祝祭劇場というワーグナーの楽劇専用の劇場を建てたほどでした。
【トリスタン和音 wikipediaより】
ワーグナーの死後、彼の音楽を政治利用したナチス・ドイツの台頭を経て、彼の音楽に心酔していたあのアドルフ・ヒトラーを連想させるという理由で、とくにユダヤ人国家であるイスラエルでは、彼の音楽はタブー視されています。
そんな背景がありながら、自身ロシア系ユダヤ人である、ピアニストで指揮者のダニエル・バレンボイムは、2001年にエルサレムで『トリスタンとイゾルデ』の一部を上演するという暴挙(あるいは快挙)に出ました。もちろん、たいへんな騒動になりました。
このDVDで指揮を務めているのもそのバレンボイムです。
さらに『ハムレットマシーン』で知られる東ドイツの劇作家ハイナー・ミュラーが演出を務めます。衣装はファッション・デザイナーの山本耀司。たいへん抽象的な舞台演出と、あのトレードマークでもある黒尽くめの無国籍な衣装が合わさると、まるで月に船出する宇宙船の中を舞台にしたSF物語のようにも見えてきます。
インタビュー集『服を作る モードを超えて』によると、ある日、日本の事務所にハイナー・ミュラーがふらりと突然現れたとのこと。山本耀司の起用は彼の人選によるものです。
このトライアングルが、独特の政治的バランスと世界観をかたちづくります。
※オリジナル言語はドイツ語。字幕は英語・フランス語・スペイン語・中国語から選べます。
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