学問の部屋です。
写真集です。世界中のいたるところで読書をする人たちばかりを撮った写真が掲載されています。
電車のなかで読書をしている人(最近めっきり見なくなりましたが)を見るのが好きで、何を読み、何を思っているのだろうかと想像し始めると、ついじっと見て礼を失してしまいます。
読書をしている人たちと、眠っている人からただよってくる幸福の移り香が似ていると感じるのは私だけでしょうか。
じかに読書をする人を見るのではなく、写真を介して見るというのは、じつに面白い体験でした。
なぜなら、被写体となっている読書人たちは、そこにいながらにして、彼ら彼女らの意識はそこにはないからです。
読書人たちは、石段や非常階段に腰かけて読み、
歩きながら読み、
電車で読み、
壁にもたれて読み、
寝そべって読み、
誰かを待ちながら読み、
屋上で読み、
立ったまま読み、
うやうやしく読み、
ゴミ箱の上に置いてふと思いついたように読み、
いつのまにか熱心に読まされ、
孤独に読み、
笑いながら読み、
悲しみに耐えるように読み、
祈るように読むーー
日本の古い写真も掲載されていました。路上にに落ちている紙切れを熱心に読む女性もいました。
本書に残された写真は、「意識の抜け殻」、「夢を見る彼ら彼女らによって脱ぎ捨てられた世界の記録」でした。そう思うことで、この、写真にうつる世界がまったく違ったふうに見えてきます。
いわば「夢の陰画」です。
見えるものだけを撮ることによって、見えないものを鮮明に写し出した写真集でした。
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