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執筆者の写真mayurransan

『天草キリシタン紀行』小林健浩編(弦書房)


学問の部屋です。


天草に住む友人が本書を送ってくれました。

2018年にユネスコ世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の天草側に位置する、崎津教会、大江教会を中心とした、隠れキリシタンにまつわる文化遺産の写真が収められた1冊です。


私も両教会には何度か足を運んだことがあります。

大江教会は外海に面した丘の上に、崎津教会は入江に建っています。


この2つの教会は、天草の2つの顔を象徴するかのようです。

西側は波飛沫たつ荒々しい外海の顔、そして、もうひとつはイルカが遊ぶ穏やかな内海の顔。

大江教会はどちらかというと、外海をみはるかしている印象。崎津教会は、穏やかな入江でひっそりと瞑想しているような静けさを湛えています。


どちらも天草半島の西の端に位置し、その立地からも、ひっそりと信仰をあたためてこざるをえなかった過去が偲ばれます。


もっとも、両教会は戦後に建てられたものですが、例えば崎津教会の祭壇は、かつてあの陰惨な"絵踏み"が行われたまさにその場所に設置されているそうです。本書を読んで初めて知りました。


ところで、隠れキリシタンや天草四郎の乱で知られる天草ですが、現在はその名残りはほとんどありません。上に挙げた教会および本渡にある”キリシタン館”にでも行かなければ、キリスト教の消息に触れることはまずありません。


長崎の一部地域では、身をひそめることそのものが信仰の様式に含まれていると聞いていたので、ひょっとしておおっぴらにそうした姿を見せることは控えられているのかもしれないとさえ思っていました。


今もなおキリスト教を信仰する人々は天草に暮らしているはずで、私はむしろその人たちに関心を持っていました。その一端を本書に収められている写真で知ることができました。

崎津教会(ここはなんと、畳敷きの教会です!)で今もなお祈りを捧げる人たちの横顔がうかがえます。


崎津教会ちかくの集落では仏壇に似た家庭祭壇という独特の祭壇が置かれ、また、「臼飾り」という新年を迎える独特の風習も残っているようです。


本書は世界文化遺産の登録を目指して作られた写真集だそうですが、これまでもひっそりと繋がれてきた天草のキリスト教文化と生活が、彼ら彼女らの信仰がある限り、観光産業による過干渉を受けることなくこれからも続いていくことを願うばかりです。

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