学問の部屋です。
昨年、九州に住む友人が、10月だというのにホタルを発見したといって動画を送ってきました。
たしかに、外灯のポールの周りを、光を放ちながら飛ぶものがあります。何度見てもホタルとしか思えません。
ホタルといえば、本格的な夏が始まる前に死んでしまうはかない昆虫という印象があります。いくら九州でも、10月にホタルはないだろう。でもじっさい光っているし……
ということで気になって、長崎大学の先生に動画を添付してメールで問い合わせてみました(その節はお世話になりました)。
いただいた返答によると、10月でもホタルは見られるとのこと(!)
おそらくヘイケボタルでしょう、とのことでした。現実というのは、ほぼ例外だけで成り立っている、とそのとき意を強くした次第でした。
ーーいきなり脱線してしまいましたが、その相談に乗ってくださった先生というのが、ホタルの明滅を研究をしている方で、明滅のサイクルには地方差がある(まるで方言のように)ことを発見されたそうです。
今回ご紹介する本書の冒頭は、このホタルの明滅の「同期」、「シンクロ」に関する話題から始まります。明滅のリズムがそろうのはなぜかを、数学によって解明しようというのです。
他にも、心臓の鼓動、睡眠の周期、量子のふるまい、橋の揺れ、渋滞などなど、これらはみな同期現象。
こうした同期現象にはみな、ある共通した数学的特徴があります。それを数式によって早くからモデル化したのが、本書の監修者でもある蔵本由紀氏。いわゆる「蔵本モデル」です。
しかしこのモデルが自然界の現象に対応しているのか、当初はまだ疑わしいものでした。
【蔵本モデル 非線形振動子集団のふるまいを記述】
本書の読みどころのひとつは、この蔵本モデルが、長い年月をかけ、具体的な事例を通じてさまざまな研究者によって実証されていく過程です。ちなみにこの研究者たちは、本書の著者も含め、とても楽しそう。
ところで、同期、と聞くと、私などはまず音楽を連想してしまい、何かの前触れがあって徐々に周期がそろっていくという印象があります。しかし、同期というのは必ずしも、律動的、リズミカルではない、という指摘には、盲点をつかれたような思いでした。
いきなりそろう!
これは、本書から得た知見の中で、個人的に収穫でした。
なるほど、同期は「複雑系」と密接に関わっているために、いったん起きてしまうとたいへんなカタストロフィーを引き起こす可能性があります。
開設されたばかりの、ロンドンのミレニアム橋の事件しかり。
いっせいに橋になだれこんだ市民たちの足取りが同期し、橋が揺れ始め危険な状態になり、2000年6月10日に一般公開された後、同年6月12日に閉鎖されました。
徐々に起きるのではなく、いきなり起きる。地震もしかり。じっさい、人間が予測し、コントロールできる話ではないようです。本書を読むとすっかり諦めがつきます。
本書の英語版が出版されたのが2003年。現在の同期研究はどうなっているのでしょうか。今後の動向を追っていきたいと思います。
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